強引な次期社長の熱烈プロポーズ
「速水様、ではこちら控えになりますので」
「あ、ありがとうございます」
「見積もりが出ましたら、ご連絡差し上げますので」
「では“携帯に”お願いします」


そういって名残惜しそうに速水は去って行った。

きっと、携帯に。と念を押したのは、そこからもしかしたら柳瀬となにか発展が望めるかも…なんていう淡い期待だろう。

柳瀬はそんなことをわかっているのか、やはり顔色ひとつ変えず、いつもと同じ接客でお客を送り返していた。


(私、柳瀬さんのこと特別だと思ったら急にこんなに気にするようになって、これから先が思いやられる…)


溜め息を無意識につき、柳瀬を見ていたら、柳瀬が視線に気がついて百合香をじーっと見つめ返してきた。

(またあの瞳で見つめられたら、こんな気持ち見透かされてそうで怖くなる。)

百合香はふいっと目を逸らして手元の原稿にまた目を戻した。

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