強引な次期社長の熱烈プロポーズ
10時になり、開店の音楽が鳴る。

百合香はショーケースの内側に立ち、手を前に組みお客様を迎え入れる姿勢を保つ。
横には柳瀬が立っている。

開店の5分間はお客様がくるまでその場で立っていなければならない。
百合香がこの5分間、柳瀬の隣だと非常に長く感じるのは今日に始まったことではなかった。

顔は動かさずに目だけで柳瀬を見てみる。

すらっとした長身に、程よい筋肉がYシャツの上から感じられる。
ここは制服ではあるけれど、男性社員はYシャツにネクタイとそこらのサラリーマンとなんら変わらない格好だ。
だけどそこら辺のサラリーマンには悪いが、比べ物にならない位、顔立ちは勿論立ち居振る舞いが綺麗だ。
同じ格好だからこそ尚更わかってしまう。


「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ!」


よそ見をしていたら目の前をお客様が通過した。
その時の風に乗って、記憶に新しいフレグランスの香りが百合香の所に届く。


(あ…この匂い。
やっぱり柳瀬さんの香りだったんだ)


百合香は今朝自分の服から香ってきた匂いが柳瀬のものだと再確認したと同時に、昨夜のことが今更になって恥ずかしく感じてきた。


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