強引な次期社長の熱烈プロポーズ

3.嫉妬、涙、告白



大きな欠伸で出勤する百合香。
昨日寝付いたのは朝方だった為、非常に眠たい。

「営業時間中はその顔どうにかしろよ」

後ろからそう言って去っていったのは柳瀬だ。

いつだって見られているのだから本当に気が抜けない。
いや、気を抜いて仕事をしてはいけないのだが。

今日はあの坂谷は公休。柳瀬は一日中オーシャン担当と次のフェアの打ち合わせやオリジナル商品についての話も立てこんでいるようで、売場とアルバイトの子を百合香が見なければならない。


開店5分が経過すると、柳瀬は一言告げて事務所へと行ってしまった。


「こんにちは」
「あ、こんにちは。いらっしゃいませ。」


百合香が声を掛けられたのは最近よく見るお客様。
名前は知らないけれど、百合香に親しげに挨拶を交わしたりしてくるこの男は大体年齢が百合香より2、3つ年上だろうか。
基本的にはいつもスーツでメガネをかけている真面目そうなサラリーマン。

外回りついでなのかたまにこうした時間に顔を出している。
色々と商品の相談をされたりと、明らかに百合香狙いの雰囲気はあるのだけど、決まって坂谷がうまく割り込んできて百合香もほっと胸を撫でおろしたりしているのだけど。


「このペンがすごくよくて。もう一本購入しようかと悩んでいて」
「それはよかったです。同じもの、ですか?」
「あんまりいないかな?そういう人」
「珍しいかもしれませんが、それだけ手に合っているというならいいと思いますよ。」


そんな会話をしながらちらりと売場を見渡す。
今は自分とアルバイトの女の子2人で男性社員がいない。
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