強引な次期社長の熱烈プロポーズ
ひとしきり悩んでから、そのお客様は替芯をとりあえず購入しただけで終わった。

百合香はやっと解放される、と心で思っていたがその男が、


「神野さん。実はファイルも探していてね」
「ファイルですか。そちらは申し訳ないのですが1階にご用意しておりますので…」
「神野さんのセンスに任せたいんだけど」
「私の、ですか」


(ファイルにセンスも何も…)

そう思いつつも店内は他にお客様もいなくて断る理由が見つからず、とりあえず一緒に1階へと案内することにした。


「お客様、すみません。私は万年筆担当ですので、こちらの商品知識は浅く…」
「いいよいいよ」


百合香の言うことを一切聞き入れず、そのままファイルの売場まで歩いて行く。


「こういう形で、ポケットがついてて…できれば薄いものがいいかな」
「えー…と…」

百合香はあまり1階の陳列に詳しくない。
希望しているような商品があるのかどうかもわからずにただ近くのファイルを見て探しているだけだ。


(あぁ。困ったな。お望みのものが本当はあるのに私が見逃してしまったら大変だし…)


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