年上の彼氏。

―柚留―


天宮寺さんを無事に家に送り届けたあと、俺は少し進んだ所で車を停めた。


「はぁ〜、なんで今日会ったばっかの生徒にこんな気にかけるんだよ…」


ハンドルに額をあてて、深くため息をつく。

天宮寺さんのこと全然知ってないのに、助けてあげたい、守ってあげたい…

そういう気持ちが強くある。

車の中でも落ち着いたように振る舞ってたけど、実際めちゃくちゃ緊張してた。
隣で笑う天宮寺さんを見てると嬉しくなる。

だから、ずっとその笑顔を隣で見せて欲しい…

そんな願望をもっててちゃんと天宮寺さんを生徒として見ていけるのか…

想いは募るばかりで、俺の口からはため息しか出てこない。


「はぁ…」


そんなとき、いきなりスーツのポケットに入れておいた携帯が鳴った。


♪〜♪〜♪〜♪


慌てて画面を見ると、そこには天宮寺さんの名前…

俺は急いで出ようと通話ボタンを押す。


「もしもし?」


何かと思い、耳に携帯を近づけると、


『ガシャン!!』


携帯からは何かが落ちる音が聞こえてきた。

俺は咄嗟に天宮寺さんの身の危険を感じ、車を素早くUターンさせた。


バンッ!!


車から降りて、急いでエレベーターホールに向かう。
すると、そこには天宮寺さんと、見慣れぬ男の子がいた。

見た様子だと、男の子側が天宮寺さんを壁に押し付けていた。


「あれは…!」


もしかして、天宮寺さんが言っていた恋人…?

俺はエレベーターホールの中に入った。

すると、ドアの開く音で気づいたのか背を向けていた男の子がこちらを振り返った。

顔立ちが良い男の子だったけど、表情は冷たく険しかった。

そして、その男の子の向こうに天宮寺さんがいた。

よく見ると、目からは涙がこぼれ落ち、今日何度か見たあの恐怖に怯えた表情をしていた。


「アンタ…」


俺は息を切らしながら、2人の様子を窺っていたら、男の子側が苛立ちを含ませた表情で俺に話しかけた。

「宮下…先生っ…!」


天宮寺さんも俺に気付き、少しだけ顔が綻んだ。


俺は、2人に近づきながら話した。


「天宮寺さん、大丈夫!?」

すると、男の子が俺の前に割り込んだ。


「おい、オッサン。なんなんだよ」


敵対心を向ける男の子に俺は冷静に答えた。


「俺はその子の先生だ」


そう言うと、俺は無意識に天宮寺さんを自分の方に引き寄せた。

その行為にまた腹を立てたのか、男の子は低い声で返した。


「もしかして、悠姫の男かよ!?」


男の子は天宮寺さんに向かって怒鳴るように叫んだ。
その言葉に俺の側にいた天宮寺さんはビクッと体を揺らした。

そんな天宮寺さんの顔をよく見ると、頬に傷が付いてた。

明らかに、さっきまでは無かった傷だった…






< 32 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop