契約の婚約者
「片桐さんは、仕事も続けていいっておっしゃってるし、ご長男なのにご同居もしなくていいのよ?沙希の自由にしていいっておっしゃってくれるのに……」


「ママ、私はまだ結婚したくないの。婚約したからって何で25で結婚しなきゃいけないの?」


「沙希ちゃん----」


優しかった十和子の声が急に低くなる。


「あなたの我がままを今まで容認してきましたが、これ以上は許しませんよ。あなたが一条の家を出たいと言ったから留学も許しました。帰国したらしたで、パパの会社に入らずに、こんなわけもわからない会社に……もうお祖父様やお祖母様を誤魔化すことはできません」


あぁ、この親に何を言っても無駄だ、と沙希はソファーに項垂れる。


自分は容姿も性格も母似だと思う。


この母は、一度決断を決めたら絶対に引かない。今までがそうだった。


ささやかな反抗しかできない十代の頃は、母に勝てた試しがなく、いつも組み伏せられていた。


だから、一条の家を出ることにした。



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