契約の婚約者
「また考え事か?」


「そだよ。だから黙ってて?」


しばしの沈黙の後、片桐の深い溜息が落ちてきた。


また余計なことを考えているのだろう、と神妙な顔で沙希を見下ろす。


「言っておくが、さっきのは無効にしないからな?」


「さっき?」


「結婚するよな?」


「……っ……」


そうだった……


セックスに夢中になる余り、つい頷いてしまった。


「あれは、卑怯よ……」


珍しく沙希の語尾が弱くなる。


契約書に判を押したわけでもなく、証拠となるものは何もない。知らないと突っぱねればいいものを何故か沙希には出来なかった。



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