契約の婚約者
その2.5秒後、気付くと片桐の唇が沙希の口腔を捉え、薄く開いた隙間から容赦なく舌が割って入ってきた。


項に手を回され、顔を背けることも許されないキス----


少しでも抵抗しようとすると、呼吸もままならない勢いで更に唇を塞いでくる。


舌を絡められ、喉の奥まで吸い付かれるほど口腔を攻め立てられ、酸素すらも奪われていく。


こんなキスは初めてかもしれない。


「んぁ……ハァ……」


何もしない、と言ったくせに、と心の中でなじるが、もう立っていられないくらい身体から力が抜け、悪態をつく思考能力も残っていない。


唇を塞がれて、やっとそれが解放されるまで4分30秒ほど----


冷静に時間を計っていたわけではない。流れっぱなしのKenny Gの曲がちょうど終わったからだ。



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