契約の婚約者
こんなキスをしておいて、人の身体に火をつけて、それでさっさと帰るのか----?


「何で?」


ポロっと沙希の口から一言漏れる。


「勘違いするな。焦らしているわけじゃない。お前にも考える時間がいるだろう?今なし崩しにセックスをしたくない」


今更?と聞こうとしたが、またあの嬉しそうな笑いでそれは遮られた。


ちゃんと寝ろよ、そう言って沙希の頭にキスを一つ落とす。


今夜はいちいちやることがくすぐったい。


離れてしまった体温が何だか寂しいような気がしたが、おやすみ、とだけ返して、片桐を見送った。


片桐が沙希のマンションに来て何もしないで帰ったのは、初めてのことだった。




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