私と私。
「隼人。真由がね、勇人君と結婚する事になったから。」
「今すぐってわけじゃないんだけどね。
高校を卒業したら、籍を入れるんだ。
だから、今は婚約って事になるのかな?」
誰が話しているかはわからない。
俺に向けられた会話は耳には入ってくる。
頭には、入ってこないけど。
「そうなんだ。おめでとう。」
笑えているだろうか。
めでたくも何ともない出来事におめでとうと言う事が、こんなに大変だとは思わなかった。
よろしくね、と差し出された手を。
あの男から差し出された手を。
どうする事もできずに、よろしくと、引きつっているであろう笑顔で握る。
視線が痛い。
幸せそうな雰囲気の、回りの視線。
なにより、満足そうな真由の視線が。