蜘蛛の糸
「ありがとう」
ピンク色の唇が小さく動く
あたしは
笑った
よくよく見ると
坂本さんの顔は綺麗で透明感を感じさせる
下ばかりを見ていたからか
あたしは、
彼女の顔をよく知らなかった
「あ、それじゃ...帰るね」
坂本さんは鞄を手にとって
あたしに背を向けた
「坂本さん」
彼女は、髪をなびかせながら振り返る
まるで
ドラマのワンシーンみたいだ
「...、あたしには気を遣わなくていいから」
言葉が、零れた
分からないけど
彼女に何か言いたかった
感情に身を任せるとはこういうことを言うのだろう
少なくとも
、こんな空気は嫌いじゃなくて
遠ざかる彼女の後姿を見つめ続けた
――― この姿を
、見られてるとも知らずに