アジアン・プリンス
ひとつ下の彼は、自分で船を動かせるようになると、度々本島のレイの元を訪れるようになる。

王子の身分がないため、正面から王宮を訪ねることもできず、公式の場では並んで立つこともない。だが、それに悲嘆することも、かといってひねくれることもなかった。

そして、我侭な母を放り出すこともしない――レイの中でソーヤほど純粋で優しい人間はいなかった。

そんな弟を罪に陥れるような真似だけはできない。


レイは違法を承知で、兄の自殺未遂と、すでに国事行為が不可能な状態であることは国会と国民に報告しなかった。『レイの結婚を持って譲位』という条文はこの時追加されたのである。


「私の結婚が2度も延期され……そのせいで彼女の中の悪い虫が騒ぎ出したようだ。突然、陛下には新しい王妃が必要だと言い出してね。国民は事情を知らないから、皆、国王のためならと賛同し始めたんだ」

「でも、失礼ながら、今の国王陛下にご結婚やお子様がおできになるとは……」

「ああ、だから……恐れながら、陛下の精子を取り出して体外受精で王妃となった女性に後継者を産ませるつもりなのだ。そんなことに利用された女性は、決して幸せにはなれないし、子供もそうだ」

「……レイ?」

「私の父は後継者をなすまで、半ば強制的に母のベッドに送り込まれたそうだ。王族の定めではあるが……」


そう言うと、海を見つめ、彼は悲しげに微笑んだ。


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