アジアン・プリンス
波が少し高くなったのか、水際に立つレイの靴を濡らし始めた。彼も気づいて、少し後退する。そして、言い難そうに、彼は口を開いた。


「彼女より先に、王妃を決めてしまおうと思った。私の婚約者が日本人である以上、王妃はアメリカ人が望ましい。リーマンショックで経済危機に瀕してる合衆国に、援助を条件に紹介してもらった花嫁が……君だ」

「あの――8年前の事件のことをご存知だとおっしゃいましたよね? それならどうして?」


それがティナには不思議だった。誰もが、あのチカコのように思うはずである。


「君は傷ついていた。一生、結婚も望まず、独りで過ごすと周囲に話していた。私は君に、図書館よりもっと快適に過ごせる――避難場所を提供できると思ったんだ」


ティナはやっと得心がいった。

この島で、孤独に耐えられる女が必要だったのだ、と。昨日の夜も、ついさっきも、可哀想な女に同情して“キスを与えた”のだろう。

普通なら、『バカにしないで!』と言う所だろう。だが、ティナには言えない。

そして、彼女は決意した。


「そうね。ここは素敵だし……このビーチなら人目も気にせず泳げそうだし、ね」

「ティナ?」


レイは不審気な声を上げる。

ティナが何を言い出したのかわからないようだ。


「私、お受けします。国王陛下の妃になります」


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