アジアン・プリンス
「どうして!? それを私に答えろというのかっ!」


そう叫びながら、レイはティナを抱き寄せた。


「あ……やめて、もう、やめて」

「昨夜、私をベッドに誘い……今また、愛を告げながら、兄の妃になるというのか?」


レイはティナを離そうとせず、ふたりはもつれ合うように数歩よろける。


「レイ……お願い、そうじゃなくて」


襲いかかるようにレイはティナの唇を奪った。

押し退けようとするティナの腕を掴み、逆にレイは押さえ込もうとする。そのとき、波がふたりの足もとをすくい、抱き合ったままの格好で倒れ込む。


ふと気づけば、ふたりはずぶ濡れになっていた。

それでも、レイはティナを庇おうとしてくれたらしい。彼の膝の上に座り込む形で、横抱きにされていた。

これが冷たい水なら、熱を冷ましてくれたかもしれない。だが、アズウォルドの海はどこか温かく、心地よかった。

レイの前髪から雫が滴り落ちる。そんな彼の姿を目にするだけで、ティナの中に芽生えた恋の情熱を呼び起こして……。


「ティナ……君を選ばなければよかった。君に会いたくなかった。君を……」

「レイ!」


今度はティナがレイの口を塞いでいた。


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