アジアン・プリンス
スマルト宮殿にも摂政であるレイの執務室は用意されている。

滅多に訪れないそこは、華美な装飾は取り除かれ、年代物の机と椅子が窓際に置かれていた。アンティークと呼ぶには歴史が浅く、金銭的な価値はない。だが、重厚で暖か味のある家具がレイのお気に入りだった。

その机にレイは濡れたジャケットを投げ置いた。

そのまま、差し出されたタオルを受け取り、無言で髪を拭く。


「殿下――ここがどこか、覚えておいででしょうか?」


冷ややかな声で質問したのは皇太子補佐官のサトウだ。ティナとの情事にストップをかけた電話の主である。



『殿下、ビーチでキス以上の行為に及ぶおつもりですか?』


携帯を取るなりそんな声が聞こえた。


『その前に、適当な島を探すようご命令ください。そこに、ミス・メイソンのために宮殿を造り、殿下がお通いになられるのがよろしいでしょう。庶子は嫡出子ご誕生後にお作りください。クリスティーナ嬢を、ミセス・チカコ・サイオンジと同じお立場にする覚悟を持たれてから、それより先にお進みください。もちろん、それに相応しい場所で』


それはサトウの怒りを籠めた、痛烈な皮肉だった。


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