アジアン・プリンス
サトウは目を閉じると大きく頭を振った。


「殿下。おそれながら申し上げます。ミス・メイソンを直ちにアメリカに帰すべきです。国王陛下の問題が無事に片づきましたら、ご自身の婚約と併せて、あらためてお考えになられるのがよろしいでしょう」


レイは窓から浜辺を見下ろした。

ついさっきのことだ。服を着たまま海の中に座り込み、30年の人生で初めて、レイは生まれながらに背負ったプリンスの称号を忘れた。

サトウの電話がなければ、間違いなく婚約者を裏切っていただろう。いや、もうすでに心は……。


「サトウ、ミス・メイソンは陛下のことを知った上で、結婚を承諾してくれたのだ」

「そ、それは……しかし、殿下、先ほどの」

「私を愛しているそうだ。だから、私の役に立ちたいと言った。そのために、兄の妃となり、この島で過ごす、と」


サトウは驚愕の表情を浮かべ絶句した。


「私はずっと父を軽蔑していた。公人でありながら私心を捨て切れず……結果、ふたりの妻を不幸にした。愛を望むなら、王位を捨てるべきだったのだ。私なら、そうするだろう」

「殿下っ!」


サトウは青褪めレイを見つめる。


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