アジアン・プリンス
ひと筋縄ではいかない男だ。そんなことは充分に承知していたが、あくまでレイのことを思っての行動なので、頭ごなしに命令はできない。

ティナを王妃にはできない。――レイはそう判断した。

だが、今の状態でティナを王国に残すことは大きな問題を抱えることになる。チカコは目的のためなら手段は選ばない女性だ。ティナは爆弾を抱えている。そんな彼女を、チカコの餌食にする訳にはいかなかった。

たとえどんな理由であれ、レイが表立ってティナを守ることはできないのだから……。


『ミス・メイソンは王妃のティアラをお望みのようです。そのために、バングルをお返ししたいとのことでございます』


サトウにそう告げられた時、嫌な思いがレイの胸をよぎる。

ティナを信じてすべてを話した。それは、迂闊な行動であったのかもしれない、と。

熱に浮かされたようなキスを繰り返した挙げ句、ひとりの女性に足をすくわれるなど、やはり自分も父の子であったかと、レイは自嘲する。

王国を危機に追い込むかもしれない愚かさに、晩餐の間中、ティナを見ることもできなかった。


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