アジアン・プリンス
だが、それにしては怒りに満ちたティナの瞳に、何かしら違和感を覚える。


そして、ソーヤだ。


レイには憤懣やる方ない表情を見せながら、ソーヤには微笑みかけているではないか。しかも、あれほどダンスが苦手だと言いながら、今にもソーヤの手を取りそうである。

レイがどれほどの思いでティナをアメリカに帰そうと思っているか、それも知らずに。


その瞬間、レイは居ても立っても居られなくなり……。 



「失礼いたします。……レイ皇太子殿下」


部屋の隅に控えていたサトウが、再び、今度は自分の携帯を手にレイに近寄る。


「どうした? また日本からか?」

「いえ、王室報道官からでございます」


レイの表情が一瞬で曇る。

アズル王室の公式声明を発表したり、記者からの質問に受け答えをしたりするのが報道官の役目だ。発信だけでなく受信の役割も果たしている。

電話は報道官を束ねる報道室の室長であった。


『……私だ』


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