アジアン・プリンス
晩餐会の夜から3日が過ぎた。

ティナはあの夜以来、1度もレイに会っていない。王宮にも顔を見せず、セラドン宮殿にも戻っていなかった。

女官長のスザンナ・アライに尋ねてみても、


「さあ、それは……皇太子さまのご公務は、すべて公表されている訳ではありませんから。長くおいでにならないときは、海外でのご公務かもしれませんね」


大したことではない、と平然としている。


「摂政である皇太子殿下がどこにいらっしゃるかわからない、なんて! 不安じゃないんですか?」

「まあ!」


女官長は声を立てて笑う。


「ではアメリカ国民は、大統領の所在を逐一ご存知なんですか? 皇太子さまも、別に行方不明になられている訳ではございません。下々の者には知らされていない、と言うだけでございます」


……確かに、言われたらそのとおりだ。

1度、補佐官のサトウを見かけ、レイの所在を尋ねたとき、「存じ上げません」ではなく、「お答えできません」と言われたのがいい証拠だろう。


そして、ティナにとってアズウォルド6日目の夜――事件が起こった。


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