アジアン・プリンス
ティナは深い眠りの中にいた。


彼女は、レイに初めてキスされた真夜中のプールに漂っている。真っ暗な中、レイを探して必死で手を伸ばした。すると突然抱き寄せられ、レイの顔が目の前に見えて……。


「ティナ……クリスティーナ」


聞こえるはずのないレイの声が耳に響いた。水の中で、声など出せるはずがないのに。


「目を開けてくれ。ティナ……私の声が聞こえるだろう……クリスティーナ」


レイがティナを呼んでいる。

彼の『クリスティーナ』の発音がとても好きだった。長音の響きが独特で、背筋を撫でられるような感覚に囚われる。もし、ベッドの上で名前を呼ばれたら、それだけで天国にいってしまうだろう。

ティナは夢の中でそんなことを考えていた。


「ティナ、ティナ、時間がないんだ。目を覚ましてくれ」


ハッとしてティナが薄目を開けた、そこには……。

宮殿内の国賓用特別室、キングサイズのベッドの上で、眠るティナに覆いかぶさっていたのは――プリンス・レイ、その人だった。


< 143 / 293 >

この作品をシェア

pagetop