アジアン・プリンス
直後、車のエンジン音がして、それはしだいに遠ざかって行く。


「アンナは病院に戻ったよ。無理を言って彼女の仕事用のクルーザーを借りた。私のクルーザーを使うと、すぐにばれてしまうからね」

「ばれるって……誰に?」

「サトウもそうだし、ニック以外の警護官にも見つかる可能性が高い。そうなれば、当然目立って、マスコミにもすぐに嗅ぎつけられる」


レイが何を言いたいのかサッパリわからない。

なぜ、皇太子であるレイが補佐官たちから逃げる必要があるのか。マスコミに知られたくない事情があるなら尚のこと、どうしてティナを連れ出したのだろう。


「マスコミって……どういうことなの? それが私と何の関係があるっていうの?」


決して寒いわけではなかったが、明かりも何もないコテージはひどく不安で……。

レイはそんなティナを、背後からそうっと抱き締めた。一瞬で全身が彼の香りに包み込まれる。

そして、レイが耳元で囁いた言葉は――。


「アサギ島でのキスが、明日発売のタブロイド紙に掲載される」


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