アジアン・プリンス
この国に、レイ以外に王子はいない。

唯ひとりの後継者なのだ。プリンスの称号は、何があっても捨てることなどできない。


「さあ……」


レイはティナの手を取り、そのままベッドに押し倒した。

上から覆いかぶさるように抱き締め、ピンク色に艶めく唇に吐息を重ねる。このまま食べてしまいたい欲求に駆られるが、寸でのところで体を引き剥がした。

薄い掛け布団をティナに被せ、レイは身を起こす。


「レ……イ?」

「もういいだろう? これ以上は“おふざけ”が過ぎる。冗談では済まなくなる」


レイはそのまま寝室から立ち去ろうとした。その背に、ティナはとんでもないセリフをぶつけたのである。


「そうね。あなたのキスはいつも素敵で、私はとっくに冗談じゃ済まなくなってるわ。今のキスだってそう。熱くなった身体をどうやって静めたらいいの? 冷たいシャワーを浴びたらいいのかしら。あなたが嫌なら、誰か他の人を寄越してちょうだい。私みたいな女でも抱きたいっていう男性をね」


このティナの言葉は著しくレイの沽券を傷つけた。

自分を抱いて慰めてくれる男なら誰でもいい。シャワー代わりの男はレイでなくともいい、とティナは言ったのだ。


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