アジアン・プリンス
ただ、レイにも誤りはあった。狂いそうなほどの性衝動に耐えるのは、男の側だけだと思い込んでいたのである。


「ティナ――君は、自分が何を言ったかわかっているのか?」

「ええ、わかってるわ。好きに思っていいんでしょう? あなたはそうやって、結婚してくれない婚約者に貞操を捧げ続けるといいわ!」


ティナの中でセックスは、男女が愛を語る上で欠かせないものだ。

抱き合うことで相手の全てを知ることができ、ふたりの間はより親密なものとなる――。

そんな、ティーンエイジャー顔負けの理想を、ティナは本気で抱いていたのだ。なぜなら彼女の愛と性に対する憧れは16歳で止まったままなのだから。

だからこそ、ティナはレイに抱かれたかった。1度思いを遂げたら、顕著な身体の反応も落ち着くはずだ、と。


まさか、罪の果実を1度味わってしまえば、後は際限なく求め続けることになるなんて……。その行為に麻薬のような効果があることなど、ティナにわかるはずもない。

深く考えず、ティナはレイを本気で怒らせてしまう。


コテージの寝室は誰もいないかのように静まり返った。


やがて、ティナの耳に、シュルッと衣擦れの音が聞こえ……。それがネクタイを解く音だと気づいた直後、ベッドが大きく傾いだのである。


「いいだろう、ティナ。君がそんなにセックスが好きで、はしたいない女性だとは思わなかった。私が点けた火は、私が消すとしよう。さあ――脚を開くんだ」


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