アジアン・プリンス
気がつけばティナは大粒の涙を流していた。

愛しているのに。たぶんレイも、愛してくれているのに。決して結ばれてはならないふたり――。


「ティナ。クリスティーナ、いいかい、泣いてはダメだ。そんなふうに泣かないでくれ。私は君を罪人にはしない。君は私のためなら地獄に落ちてもいいと言ってくれた。君の名誉と幸福な未来を、私は取り戻すつもりだ。チャンスをくれないか?」


レイのいない未来に幸福などない。

だが、レイと共に過ごす未来にも幸福は見つからなかった。

首を横に振ろうとして、ティナはレイの瞳を見つめた。アズル・ブルーが煌き、ティナの心を包み込む。それに惹き込まれるように、彼女はうなずいてしまう。

すると、レイは初めて逢った時のように、右手を裸の左胸に当てた。

座っていた体勢から右膝を立て、左膝は砂についたまま……そして左手で、ティナの金色の髪を数本掴み、自分の唇に押し当てる。


「レイ・ジョセフ・ウィリアム・アズルの名に懸けて、約束は守る」


それはレイにとって命より重い、称号を懸けた誓いであった。


< 174 / 293 >

この作品をシェア

pagetop