アジアン・プリンス
「ミセス・サイオンジに頼みごとがあったというのは……本当?」

「ああ。そうだ」

「ごめんなさい。私のせいで」


彼女は何を頼まれても絶対に認めない、と言っていた。

おそらく、あの調子でレイにも噛み付いたはずだ。ソーヤにも迷惑を掛けたに違いない。そう思うとティナは落ち込む一方だった。


「君が謝る必要はない。チカコは私の申し入れを快く承諾してくれた」

「え? まさか……そんな」


ティナは驚き、レイの顔をまじまじと見つめた。そして気づいたのだ、彼のひどく疲れた表情に。


「レイ、どうしたの? 顔色が悪いわ」

「過労と寝不足だ。君のせいだよ、ティナ。眠ろうとすると、裸の君が出て来て私を誘惑する。アジュール島で君の肌をなぞった指が、もう1度、と欲しがるんだ」


そう言うと、レイの目が光った。

吸い寄せられる錯覚に、ティナは必死で抵抗する。


「ダメよ。ダメ……。あなたは父親になるのよ。そう言ったじゃない。2週間後に結婚するって!」


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