アジアン・プリンス
小さな子供とはいえ、膝までフェンスの向こうに出てしまっている。予想以上にずっしりと重い。とても、彼女ひとりで引っ張り上げるのは無理に思えた。

少しして、ようやく周囲から――

「子供が落ちそうだぞ!」「乗組員はいないのか?」「早く助けろ」

そんな声が上がり始めた。


「しっかり、坊や。すぐに引き上げてくれるから。お願い、動かないで……」


少年が怯えて動けば動くほど、ティナは手が滑りそうになる。


(誰か……誰か、助けて……)


そう思った直後、乗組員が飛んで来て、ティナの反対側から少年を抱え、引き上げてくれたのだった。


ティナはフェンスにもたれ掛かり、大きく息を吐く。そのとき彼女の頭上から、エアポートに着岸します、とアナウンスが流れた。


スクリューが止まり――船が大きく揺れた。


ティナもバランスを崩し、鉄製のフェンスを掴もうとした……刹那、彼女の指は空を切り、体が宙に浮いた!


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