アジアン・プリンス
本島からのフェリーが近づいてくる。これにティナが乗っているはずだ。そう思った瞬間、彼はじっとしていられなかった。

レイは部屋から飛び出し、着岸ゲートに足早に向かう。


「殿下? 殿下っ!? こちらで……どうか、こちらでお待ち下さい」

「いや、迎えに行く。あのじゃじゃ馬娘のことだ。目を離すと何をしでかすかわからない!」

「で、殿下っ!」


必死で止めるニックたち警護官を無視して、レイは突き進んだ。すれ違う者は皇太子の登場にビックリしながら、とにかく頭を下げている。


彼がフェリーの近くまで来た時、周囲で悲鳴が上がった。

ニックらは緊急事態に備えホルスターの拳銃に手をやりつつ、レイを守ろうとする。

だが――。


「人がデッキから落ちた!」

「女が海に落ちたぞ!」

「金髪の若い女だ!」


まさか! 嫌な予感がレイの胸を走った。

その瞬間、彼はゲートを抜け、警護官と係員を振り切り、今まさに着岸しようとする船に駆け寄った。


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