アジアン・プリンス
ティナには何も考える時間はなかった。

えっ? と思った時には全身が風に包まれ――半瞬後、彼女の体は海の中だった。

綿のシャツとクロップドパンツは、あっという間に彼女の全身を拘束し、海面から遠ざける。もがけばもがく程、腕も脚も糸が絡まるかのように、自由が奪われていった。


ふと、ティナの心に絶望がよぎる。


このままアメリカに帰って何が待っていると言うのだろう?

どのみち、孤独なまま一生を終えるに決まっている。そうでなければ、父に利用され、金儲けの道具のように扱われるだけだ。


それならいっそ、このアズル・ブルーの海に眠りたい。


ずっとレイの傍にいられるのなら、それも悪くない。


そんな感情に囚われとき、ティナは静かに目を閉じた。そのまま、海の底に吸い込まれていく。



次の瞬間――ティナは後ろから抱きしめられた!


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