アジアン・プリンス
駆けつけた沿岸警備隊の3隻の船からも、半ば呆然とした視線が注がれる。

ふたりは衆人環視の中でキスを繰り返し、抱き合っていたのだ。

みんな、呆気に取られた様子だったが……少しずつ拍手が広がり、それはやがて喝采の嵐となった。


「殿下――もうよろしいですか? ミス・メイソンを救助したいのですが?」


警護官のニック・サトウをはじめ数人が、ふたりの周りを泳いでいる。レイが警護官の制止を振り切り、海に飛び込んだため、彼らも慌てて追従したのだ。


「駄目だ。プロポーズの返事を聞いていない」


ニックは溜息を吐くと、ティナに懇願する。


「ミス・メイソン。殿下は非常に頑固なお方です。――我々が力尽きて沈まないうちに、お返事をいただきたいのですが」


丁寧な言葉使いだが、ニックは困ったような顔で笑っている。

ティナにはもう、なんと答えたらいいのかわからない。


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