アジアン・プリンス
扉を開け、帰るように促されエリザベスの表情は一変した。


「レイ! このコテージで、あなたに女の体を教えてあげたのは誰か忘れたの? クリスティーナ、彼に抱かれるたびに、わたくしの存在を思い出すといいわ。それはすべて、わたくしたちふたりも経験したことのなのだから!」

「ミズ・エリザベス・ジョーンズ。それ以上ひと言でも口にすれば、君はその身分と権利を永久に失うぞ! 私にはアズル王室の品位を貶める人間を、排除する義務がある。アーロンの件だけでも、君は充分それに値する! 与えられたものだけを持ち、さっさとアメリカに帰れ。それで満足できないなら――君は、称号と息子を置いて行くことになる」


ティナを睨みながらエリザベスは横を通り過ぎる。

間近で見ると、怒りのため紅潮した頬と目尻には皺が見えた。


12年前……今のティナと同じ歳のころ、エリザベスはもっと美しかっただろう。18歳の少年が夢中になっても無理はない。今のレイが彼女に夢中なわけではないのだから。

ティナはそう思って自分を必死で納得させようとした。

だが……。


――彼に抱かれるたびに、わたくしの存在を思い出すといいわ。


あのベッドで、このコテージで、レイと愛し合うことなんてできない。それくらいなら、まだ王宮のほうがましであろう。


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