アジアン・プリンス
アズル王室の男子はレイの他に――当時17歳のソーヤ・ジャック・サイオンジ、亡くなった父の従弟で当時55歳のリューク・トーマス・スタンライト。このふたりのみ。

しかし、彼らは庶子で継承権を持たない。

だが、混乱が続けば、血統を理由に継承権を主張してくるかもしれない。

まさしく、シン王子が命を落とす事態を想定して、チカコはソーヤを後継者とするべく日本政府に動きかけていたくらいだった。


それを察知してレイは兄を王位に就けた。日米双方の顔を立てるべく、自身が皇太子になり、兄の回復までを条件に摂政に就任する。

しかし、その後状況が変わり、現在では『国王の崩御に伴い新国王の即位』という原則を外し、レイの結婚を持って譲位と変更された。


問題は、その“変わった状況”だろう。

それは――できる限り、いや、何があっても、他国には知られたくないものだ。

国の存続と平和のため、国民の安全な生活を守るため、自身の判断が間違っていたとは思わない。

だが、様々な真相が暴かれた時、『Asian prince』と親しみを持って呼ばれるレイの名誉は間違いなく失墜する。

真実を知るものはレイと補佐官のサトウ、王宮医師のドクター・ラスウェル、そして、そもそもの原因を作ったミセス・チカコ・サイオンジだけだった。


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