アジアン・プリンス
4年前、ヨーロッパの王国を公式訪問した際に、現地の記者から質問を受けた。

常に身に着けているバングルは恋人からの贈り物か? と。

その時にレイは、『祖母から成人の祝いにいただいたもの。生涯外すつもりはないが、祖母以上に大切な人が現れたなら贈ってもよい』と答えている。

しかしその後、親しくなった女性のほとんどがやけに手首を気にするようになり……。

面倒になったレイは王室スポークスマンを通じ、『祖母のように、子や孫に贈ることを考えている』と付け加えさせた。

嘘は吐いてない。いずれは、と考えていた。そう、昨日までは。


「いつから……ミス・メイソンは殿下のお子様になられたのでしょう」

「嫌味も説教もやめてくれ。サトウ、君はいつまで私の教育係のつもりなんだ?」

「補佐官として申し上げております。バングルのことがマスコミに知れれば、ミス・メイソンの名誉に傷が付きます。殿下ご自身も同様です。彼女が王妃となられた場合、皇太子は愛人を陛下に献上した、と言われるやも知れません。このままアメリカに戻られても、王妃候補に手を出したため、送り返したと……」

「ミス・メイソンには国家の安泰のため、無理を頼むことになった。我々が彼女に望むことは、バングルひとつと引き換えにできるようなものではない! 私は……我が国まで来てくれた彼女に、敬意を表しただけだ」

「それは……本心でございますか?」

「もちろんだ」


奥歯を噛み締め、口をかたく結んだ。

こうなれば、レイは何があっても譲歩しない。幼い頃から彼をずっと見てきたサトウは、そのまま黙って引き下がった。 


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