アジアン・プリンス
そこは海上の空港ではなく、山頂を切り開き、ヘリの発着のためだけに造成された場所だった。

中央に立ったポールにはアズル・ブルーの国旗がはためき、入り口の門柱には王室専用のヘリポートであることが書かれていた。

ティナはまるで王族の一員のように、警備兵に敬礼で出迎えられる。

後になって、彼女の乗りつけた車が皇太子専用車両であったことに気づいた。


ヘリの近くでレイは彼女を待っていた。ティナと視線が合った瞬間、レイは息を飲む。彼らしくなくスッと目を逸らし……。それでも、できる限りさりげなく、ティナに手を差し伸べるのだった。


「レイ……皇太子殿下……あの」

「突然呼び立ててすまない。約束どおり、君に兄上を紹介したい。一刻も早く、決着をつけるほうがいいような気がしてね」


そこまで言ったとき、レイは顔を上げ笑顔を作った。

公人であるレイはどんな時でも笑顔を絶やさない。そんなレイの姿はティナの目に、気高さと冷たさを同時に映した。

だが同時にティナは知ったのだ。

穏やかで優しい……彼女が見惚れた笑顔が、作り物であったことに。昨夜見せた、ティナを燃やし尽くさんばかりの情熱。あれが、レイの真実――素顔なのだ、と。


「あの……どこに行くんですか?」

「アサギ島だ」


レイはティナの手を引き、ヘリの中にエスコートしながら、短く正しい答えを口にした。


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