アジアン・プリンス
マスコミに、の言葉にティナの鼓動は一気に高まった。

ティナのそんな様子に含み笑いを浮かべつつ、チカコは更に言い募る。


「アメリカ人なら誰でもいいんでしょうね。全く、信じられないわ! 王妃にこんな穢れた娘を連れて来るなんて! 国王を蔑ろにしている証拠よ!」


その台詞に、ティナの手足は震え、うつむいたまま顔が上げられなくなった。

彼女は自分が勝ったと思ったのだろう。途端に舌なめずりするような声を出し、立ち上がってティナに擦り寄ってくる。


「ねえ。ご存知かしら? 陛下には愛する女性がいらっしゃるのよ」

「ま、まさか、そんな」

「それがね、日本人女性なの。お気の毒だと思わない? 愛する方がいるのに引き裂かれて……。それに、国王として王宮に戻りたいのに、レイに阻まれておいでなのよ。ほら、陛下が再婚してお世継ぎができれば、あの男に王位は行かなくなるんですもの」


陛下に愛する女性云々は、容易に信じられることだ。しかし、レイに限ってそんなわけはない。彼が国のことを話すときや、兄のことを『陛下』と呼ぶ声など、愛情に溢れている。

王位が欲しくて動いているようには決して見えない。


「それは……それは違うと思います。皇太子殿下は素晴らしい方です。そんな、私利私欲のために動かれたりは」


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