叶わない恋。
『ただ…これだけは守れ。
人を傷つけることは、自分自身を傷つけていることと同じなんだ。
だからもう人を…自分自身を傷つけるな。』
仁がドアのほうに歩く音が聞こえる。
俺も忍び足でドアのほうに近づく。
『中澤先生、すみませんでした。』
最後の一言を言った仁の声はいつもと同じだった。
俺が職員室を出ると、中からすすり泣く声が聞こえた。
これは中澤先生の声だ。
きっと中澤先生は分かっていたんだ。
自分がいけないことをしていることを。
でもどうしても自分では止められなくて…
誰かに止めてほしかったんじゃないか…?
あの泣き声を聞いてそう思った。
『仁??』
職員室を出ても何も言わない仁に声をかける。
『ねぇ…桐ちゃん。
俺、間違ってたかな…??』
俺の方に振り向いた仁は哀しそうな切ない笑みを浮かべている。
『なんだよ?そんな顔して…
だいたいな、間違ってたかどうかなんて誰にも分からない。
俺にも…誰にも分からないもんなんだよ。
だから、そんな顔するなよ』
俺は仁の背中を思い切り叩いた。