叶わない恋。
「桐ちゃーん、来ましたけど??」
授業後、職員室にだるそうな顔で入ってきた夏希。
『おぉ、夏希。
お前また一ケタだぞ??』
俺はそう言って授業中にやったテストを夏希の前に差し出す。
さっき俺が言った通り夏希の点数は5点。
10点中の5点ではなく、
50点満点の5点。
しかもそれは記号問題で取った点数。
夏希の勘は冴えているらしい・・・
『海道、いい加減に勉強したら??』
後ろから夏希の答案を覗き込んだ中村が言う。
「だって社会キライだし・・・
だいたい、あたしらが生きてるのは”今”だよ?
過去のことなんて興味ないし、
勉強する意味なくない??
”人は過去と同じ過ちを犯す。”
なんて言葉あるけどさ、そうとは限らないじゃん?
今を動かしてるのはあたしたち。
過去の人が動かしてるワケじゃないじゃん。」
偉そうにモノを言う夏希。
この意見・・・正しいかもしんない。
歴史を勉強したからって社会生活で役立つワケではない。
俺が学生だったころ・・・
よくそんなこと愚痴ってたっけ・・・??
『数学とか、足し算引き算、割り算掛け算できればいいワケじゃん??
分数の計算とか日常で使わないのに
なんで勉強しなイカンのだしね・・・・・・』
なんて帰り道、ツレと言い合ってた。
こんなこと教師になって忘れてたな・・・
でも、やっぱり勉強しないといけないんだよな・・・
日常で使えなくても、
学生の仕事は勉強することだからな。
俺はそれを言おうと口を開こうとした。
でも、
『夏希さん、すごいですね。』
という言葉に遮られた。