叶わない恋。
「あたしさ…夢見たんだよね…」
俺の腕の中で呟く夏希。
『どんな夢だった??』
「あのね?真っ暗なトンネルの中にあたしがいて、
そこに人影が見えたの。
でね?あたしを呼ぶ声が聞こえた。
だからその人影のほうに走ってったんだ。
で、人影の前に着いたら
”お帰り、夏希”
って言って手を差し出してくれた。
その手が陸な気がするんだ。
闇の中からあたしを救ってくれた陸は
きっとあたしを幸せにしてくれるって思ったの。」
俺から離れニコッと微笑んだ夏希。
いつもの強気な夏希はどこかに影を潜めているのか?
お前、本当に夏希か?
そう疑いたくなるようなロマンチックなことを言う夏希。
『きっと俺だよ。』
俺は夏希の話に合わせる。
そして笑って安心させた。
でも本当は笑えなかった。
だって夏希が目覚めたのは桐島と俺が交代してすぐだったから。
俺が夏希の手を握っていたのはホンの1分くらい。
きっとその手は桐島なんだ…
夏希を闇の中から救い出したのは俺じゃない。
桐島なんだ。
でも、夏希。
俺は必ずお前を幸せにしてやる。
桐島がお前の運命の相手だとしたら、
俺はその運命を憎み、
そしてそんな運命をねじ曲げてやるよ。
桐島なんかに、負けない。
―Side 陸 終―