Why?
幸枝の場合 2
「終わった…」
今日ゆかりが休んだせいで、幸枝一人で事務所を回した。
もう一人のパートさんは、風邪を理由に休んでしまったのだ。
外を見ると、すでに真っ暗で、事務所の時計は、夜の8時を指していて、幸枝は首を左右に振った。
『ふぅ〜疲れた…今日に限って、何で忙しかったんだろっ』
幸枝は給湯室に、自分の湯呑みと部長のマグカップを片付けに行った。
「川口さん!まだいたの?」
ガチャガチャとドアを開ける音と同時に、部長の声が聞こえ、幸枝は驚いた。
「はっ、はいっ。今、帰るところです」
一瞬、声が裏返ってしまった。
部長がカツカツと、幸枝に向かって歩きながら
「悪かったね、遅くまで…電話に出なかったから、てっきり帰ったかと思って、ゆっくりしてきちゃったよ。ごめん」
「あ、はい。大丈夫です」
そう返事をしながら振り向いた時には、部長が目の前に立っていた。
「あっ!(びっくりした〜)」
「良かったら、お詫びとお礼にメシでも奢るよ。居酒屋でもどう?」
「え…?」
「旦那さん、いるんだよね?怒られちゃうかな?」
「えっと…それは…連絡して、聞いてみます。けど…いいんですか?」
部長は左目をウインクさせながら、右手の親指を立ててグーとさせた。
幸枝は部長の脇を、そそくさっと通り過ぎバックの中から携帯を取り出した。
リダイアルボタンをプッシュし、夫にコールする。
『あれっ?出ない…』
幸枝は、自宅に電話し直した。
ワンコール、ツーコール…なかなか出ない電話に、イラッとした。
「どうした?」
「それが、誰も出ないんです…」
携帯を切ると、メールと着信のお知らせがある事に気づいた。
それは、夫からのメールだった。
(今日、お袋の家に子供達は泊まらせたから。俺は、会社の飲み会で遅くなる)
『なーんだ…そっか』
幸枝は携帯をバックにしまい、振り返った。
「大丈夫です。連れてって貰っていいですか?」
「よし!じゃあ、行こう!」
部長は椅子に掛けてあったコートを左腕に掛ける様に持ち、幸枝の背中を叩きながら、先に入口に向かって歩いて行った。
幸枝もすぐバックを持ち、部長に続いた。
「あっ、電気消さないと…」
部長が振り返ると、幸枝とぶつかった。
「きゃっ…す、すいません」
「ごめん、大丈夫?」
部長が幸枝の顔を覗き込む。
ドキッ…
目が合った。
幸枝は恥ずかしくなって、目を逸らした。
「だ、大丈夫です。行きましょう」
「じゃあ、消すよ〜」
パチンと音が鳴り、事務所は真っ暗になった。
今日ゆかりが休んだせいで、幸枝一人で事務所を回した。
もう一人のパートさんは、風邪を理由に休んでしまったのだ。
外を見ると、すでに真っ暗で、事務所の時計は、夜の8時を指していて、幸枝は首を左右に振った。
『ふぅ〜疲れた…今日に限って、何で忙しかったんだろっ』
幸枝は給湯室に、自分の湯呑みと部長のマグカップを片付けに行った。
「川口さん!まだいたの?」
ガチャガチャとドアを開ける音と同時に、部長の声が聞こえ、幸枝は驚いた。
「はっ、はいっ。今、帰るところです」
一瞬、声が裏返ってしまった。
部長がカツカツと、幸枝に向かって歩きながら
「悪かったね、遅くまで…電話に出なかったから、てっきり帰ったかと思って、ゆっくりしてきちゃったよ。ごめん」
「あ、はい。大丈夫です」
そう返事をしながら振り向いた時には、部長が目の前に立っていた。
「あっ!(びっくりした〜)」
「良かったら、お詫びとお礼にメシでも奢るよ。居酒屋でもどう?」
「え…?」
「旦那さん、いるんだよね?怒られちゃうかな?」
「えっと…それは…連絡して、聞いてみます。けど…いいんですか?」
部長は左目をウインクさせながら、右手の親指を立ててグーとさせた。
幸枝は部長の脇を、そそくさっと通り過ぎバックの中から携帯を取り出した。
リダイアルボタンをプッシュし、夫にコールする。
『あれっ?出ない…』
幸枝は、自宅に電話し直した。
ワンコール、ツーコール…なかなか出ない電話に、イラッとした。
「どうした?」
「それが、誰も出ないんです…」
携帯を切ると、メールと着信のお知らせがある事に気づいた。
それは、夫からのメールだった。
(今日、お袋の家に子供達は泊まらせたから。俺は、会社の飲み会で遅くなる)
『なーんだ…そっか』
幸枝は携帯をバックにしまい、振り返った。
「大丈夫です。連れてって貰っていいですか?」
「よし!じゃあ、行こう!」
部長は椅子に掛けてあったコートを左腕に掛ける様に持ち、幸枝の背中を叩きながら、先に入口に向かって歩いて行った。
幸枝もすぐバックを持ち、部長に続いた。
「あっ、電気消さないと…」
部長が振り返ると、幸枝とぶつかった。
「きゃっ…す、すいません」
「ごめん、大丈夫?」
部長が幸枝の顔を覗き込む。
ドキッ…
目が合った。
幸枝は恥ずかしくなって、目を逸らした。
「だ、大丈夫です。行きましょう」
「じゃあ、消すよ〜」
パチンと音が鳴り、事務所は真っ暗になった。