沈丁花

ハッと土方が我に帰った時はもう、遅かった。

島崎が土方のうなじに向かって木刀を突き出している。
これが本物の刀だったら絶命していただろう。

「島崎、一本!」

彦五郎が言った。

土方の頭の中は真っ白だった。
喧嘩なんぞ負けたことの無い。先程のようなピンチでもくり抜けて勝ちを掴み取ってきた。

攻めて攻めて攻めて…

呆気なく終わった。

意味が分からない。

初めて味わう、負け。

そんなことはあり得ない!

「島崎いぃ!」

土方は後ろを向き、木刀を思い切り振った。

「歳!もう終わったんだ!やめぬか!」

彦五郎は叫んだ。試合が終わっているにも関わらず土方は木刀を振り上げる。

だが土方の試合というのは、自分との葛藤。
負けん気の強い土方のプライドが、負けを許さない。

パシッ

土方の木刀を握る手が静止した。

恐る恐る自分の握る手を見ると…
島崎が片手で土方の手首を掴んでいたのだ。

試合前とは違う、冷ややかな目を真っ直ぐ土方に向けて、口を開いた。
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