沈丁花
「突きが軽い。そして無駄な動きがあり過ぎる。」

島崎は掴んでいた土方の手を離し、土方が持っている木刀をゆっくりと撫でていく。

「ただ我武者羅に打てばいいってもんじゃねぇ」

木刀を撫でていた手をピタリと止める。

「勝てばいいってもんじゃねぇ」

止めた手を再び動かし、土方の手へ向かっていく。

「しっかり相手の目を見て、戦う。」

向かっていた手を、土方の手の隣へ持って行き静止する。

「負けたなら、それだけの武士としての覚悟ができてねぇってことだ」

パシッ

土方が持っていた木刀を島崎が奪いとった。

「何のために戦う?」

風が強くなる。

「何のために刀をふる?」

後ろに束ねた土方の髪がサワサワと揺れた。

「それが分らなきゃ、勝てねぇよ」

島崎は木刀を自分の腰にさした。
そして、道場の端へ行き、自分の持っている荷物から一本の丸太を取り出した。

「これを何百回、何千回も振ってろ。」

土方へ丸太を差し出した。ドンと床へ丸太を置いた。

「知るかよ。そんなもん」

土方は背を向け、道場をあとにした。
そんな土方の顔は、険しかった。

島崎は彦五郎の方へ顔を向けた。

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