沈丁花
明くる日も同じような日々が続いた。

土方が風呂からあがり自室へ向かう途中、彦五郎に呼び止められた。

「歳三。」

「何です彦五郎?」

疑念を抱きながらも土方は振り返る。
何となく話を聞いてすぐに立ち去ろうと考えた。
毎日あの事をしていると疲れるのだ。
うつろな目を彦五郎に向ける。

「明日、先公が来るぞ。」

ピクリと土方の耳が動いた。先公という言葉に反射した。

「おれにゃ関係ない。」

彦五郎に背を向け、自室に帰っていく土方。
だが、さっきのようなうつろな目は完全に開ききっていた。

「関係なくないだろ…」

素直じゃないな、とつくづく思う彦五郎。

あの握ったままの拳。ピクリと動いた耳。

あれは先公…島崎勝太と手合わせするのを心待ちにしていた証拠だ。
きっと、瞳孔も開いていたに違いないな。

クスクスと独りでに笑う彦五郎をよそに、自室に戻った土方は握っていた拳を開いた。

「こりゃひでぇ」

自分の手の平を見て少しばかり驚いた。

だが、その手の平が島崎と手合わせするときに、大いに役に立つと思っている。

土方は安堵し、風呂に入る前に事前に敷いていた布団の中に潜る。

プルプルと震える土方の身体。
布団をしっかり被っているはずだ。

これが武者震いか…。

その震えは止む事はなく、土方は眠りについた。
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