沈丁花
ピチチチチ…

心地の良い鳥の音で土方は眠りからゆっくりと覚めていく。

「今日…」

島崎が来る日だ。

土方とあまり背が変わらないのに、剣の腕は見事なもので、土方に助言や説教こいて帰っていった男だ。

もちろん土方は、島崎を良い目で見ていない。
きっと島崎も、土方みたいな暴れ者は好かないだろう。

なのに的確な助言をした島崎が無性に腹が立つ。
どこまでお人好しなのだ、と。
だが、心の底を乱す言葉をかけてくる島崎は、どこか尊敬するものがある。

『何のために刀を振る?』

あの問い掛けは未だに答えが出ないままだ。

あと少し、もう少しで分かる気がする。

そんな気持ちを抱きながら、いつものように着流しに着替え、いつものように居間に向かう。

朝飯を食べ、彦五郎とともに道場へと向かった。

ブンッブンッと木刀を振る彦五郎をよそに、土方は角に寄って腰を落としていた。

「先公が来る前に素振りでもしたらどうだ。」

心待ちにしているなら、と心の中で言い土方に語りかける。

「…。」

無言だ。それより、彦五郎に語りかけられていることを気づいていない。

土方は、自分いる位置から一番遠い壁を見つめ、動かない。

これから島崎が来る、となると素振りをしたい土方だが、今回は掻き乱された心を鎮めていた。

いや、鎮めなければならない。

前回のような焦りが高ぶった感情を生み出し、冷静さを失い、負けへと繋がる。

負けはもう御免だ。

御免というより、自分が断じて許さない。

いや、許さない。


もともと町人であった土方の夢。

武士。

その覚悟を今、試そうとしているといっても過言では無かった。

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