沈丁花
ガラッ

道場の戸が勢いよく開いた。

そこには、のぶと島崎が立っていた。

土方は身体を一瞬で立ち上がらせ、島崎の方へ目を向けた。

島崎も彦五郎の稽古をつける予定だが、土方の方へ目をやる。

お互い目を見合って微動打にしない。

「…先に歳三へ稽古をつけてやって下さいな島崎さん。」

この沈黙を破った彦五郎の声がこだました。

「そうさせてもらうぞ。」

にんまりといつものように微笑みかけた。
だが、らしくない険しい表情を土方へ向けた。

「答えはまだか?」

ピクリと土方の身体が動いた。

まだ、答えが出ていないのだ。

「稽古が終わったら答えるさ。」

それだけ言い残し、腰から事前にさして居た木刀を抜いた。

島崎も少し表情を和らげ、腰から木刀を抜く。

だが、二人とも移動することはなく、近くにいたのぶと彦五郎が道場の角へ移動した。

両者構えて始まりを待つ。

あの日のような風は、吹いていない。

土方はスッと目を閉じた。

島崎も少し驚き、だが予想していたかのように、目を閉じる。

ドクドク…ドクドク…

自分の心臓の音だけが聞こえる。

何もない、無音の世界。

土方は"いつものように"意識を集中させる。

大きく空気を吸い込み、吐く。

ドクドク…ドク…

自分の鼓動が変わる。

カッと目を開き、木刀を振り上げた。




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