沈丁花
「さあこちらに。」

のぶは屋敷の中の道場の扉に手を掛ける。

「彦五郎。久しぶりだな。」

道場の中に、竹刀で素振りをしている男の姿が目に映る。
その男が素振りをやめ、にんまりと微笑みながら土方の方へ向く。

「相変わらずじゃな。歳三よ。」

土方はヅカヅカと道場の中に入り、端にある木刀を手にとった。

「彦五郎さんよ。手合わせ願う。」

木刀を両手で握り、構える。
だが、彦五郎は残念そうな顔をして、木刀を床に降ろす。

「ごめんなぁ歳。今日は指導する先公が来るのだよ。」

指導する…先公だと?そいつぁ強いのか?
深く考えている土方の表情を感じたのか、彦五郎はこう提案した。

「お前も稽古を付けてもらうか?天然理心流の当主だ。お前の相手でもしてもらえ。」

天然…理心流?

ああ。あのイモ侍の。

…おもしろそうだな。
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