沈丁花
「もともとな。俺は命を狙われたことがしばしばあってな。井上松五郎の勧めで入門したのだよ。」

「俺ぁんなイモ流に入門する気ぁねぇよ。」

かったるそうに木刀を肩に乗せ唇を尖らせる。

「歳!少しは慎みなさいな!」

様子を見ていたのぶが我慢出来なくなり、口を開いた。
それを見て、ガハハと笑う彦五郎。

「今更良いってことよ!そろそろ先公がくる刻だな。」

「そういや彦五郎。その先公の名は…」

歳三が言いかけたとき、道場の扉が勢いよく開く。

そこに立っていたのは、茶色い着流しを身につけ、髷を結っている背の高く肩の広い男がいた。

「お前がイモ侍の当主か?」

「おい!歳三!口を慎まんかい!」

のぶが二度目の口を開く。
だが、男はもっと言いたそうなのぶを制し、歳三に真っ直ぐ目を向ける。

「お前か。色んな処の道場には現れ、暴れ回っているという武士は。確か…土方歳三と言ったかな。」

男は手を顎に付け、歳三を舐めるように見る。
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