『若恋』一度だけのキス【完】
―――触れたい
触れられない。
―――伝えたい
伝えてはいけない。
―――奪いたい
奪えるものなら。
りおさんが溢した涙はどんなにか重い。
泣いてくれるひとがいる。
自分を大切にしてと心配してくれるりおさんがいる。
「りお、さん……」
見つめているだけで。
若の後ろから見ていられるだけで。
それでいいと思えていたのに。
それだけで満足だと思っていたはずなのに、見つめているだけでこんなにも苦しい。
触れてはいけないひと。
愛してはいけないひとだと、わかっているのに心が言うことを聞いてくれない。
「りお、さん……」
眠るりおさんを見つめる。
ソファーに横たわり涙する彼女を。
息ができない。
なのに目を反らせない。
目を反らせば少しでも潰れそうな胸の痛みから解放されるのに…