ButterFly
「.....あ...あの..?」
「...もう、今日は 遅い。 今日は..帰れ
明日、朝早く来て仕上げればいいだろ」
すっと顔を上げる。
・・・わたしは、この時 始めて 彼の顔を真剣に見たかもしれない。
それと同時にもっと 触られたい衝動が溢れ出した。
整った眉毛、綺麗な二重に切れ長な目、すっと通った鼻筋
妖艶な唇、綺麗に整えられた爪、細く長い指先...
吸い込まれしまうくらい 彼は美しい。
「どうかしたか?」
「あっ、い....え」
思わず逸らしてしまった彼の顔から未だ握られている手首に視線を落とす。
沈黙が落ちる。
だが、彼はわたしの視線に気づいたのか急につかんでいた手を離した。
「あぁ、ごめん..
気をつけて..帰れよ」
そういうと彼は ゆっくりと足を進め始めた。
カツン カツン カツン
「じゃあな」
背中を向けたまま 少し手を上げた彼を見つめながら
未だに残っている彼の体温を確かめるかのように右手首にそっと触れる。
さっきまできつかった 彼のムスクの香りが 既に恋しくなるほど
触れられたい衝動に駆られる。
「あ.....あのっ!」
言葉につまりながら やっと言った言葉に彼はゆっくりと振り返る。
「お、つかれさまで..す」
微笑した彼は またすぐに背を向け
「お疲れ」
というと 一定のリズムを作りながら 歩いていく。
彼の革靴の音は 二人だけのオフィスに虚しく響き渡った....