緑の食事風景
私がその女性に気を取られていると、ベッドに上体を起こした母がにやにやと笑いながら

「あんたね、こんにちはとか、お久し振りですとか、何か言う事があるでしょ。

挨拶も出来ないの?」

と言った。


母は少し顔色がすぐれないようだが、憎まれ口をたたく程度には元気らしい。


そっちこそ、文句を垂れる前に「来てくれてありがとう」ぐらい言えないのか、と反論しそうになった時、その見知らぬ女性が

「あら、娘さんね」

と、口を挟んだ。


「よく来てくれたわね。

ありがとう」


その女性は母の代わりに猫撫で声で礼を言い

「さぁどうぞ」

と、ベッドの側のパイプ椅子を手で指し示した。


なぜ私が、こんな知らない人に席を勧められねばならないのか。


再び込み上げる怒りを押さえつつ

「お邪魔します」

とだけ小声で言って、病室に入った。
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