赤い林檎
「…ここ、俺の席」
そう声が聞こえるや否や、美宇が宙に浮き、瑠色の横の席から退かされる。
「………え…?」
いまいちこの状況が理解出来ない瑠色と美宇は、ただただ呆然と声の主を見上げる。
一八〇センチ以上あるだろう。
スラッとした背格好にブルーにも見える、アッシュグリーンの長髪のイケメンが立っていた。
「時雨ーっ!」
と、さっきまで殺気を放ちながら美宇と睨み合っていたとは思えないくらい、郁真は勢いよくそのイケメンくんに抱き着く。
…え、絵になる。
ふわふわして可愛らしい郁真に、クールなかんじのイケメンくん。
遠くから見たら、カップルに見られても可笑しくないくらい。
「時雨、時雨っ!俺、新しい友達出来たんだっ」
「そうか。良かったな」
よしよし、とイケメンくんに頭を撫でられて嬉しそうに笑う郁真。
うん、可愛い。
そんな二人のやり取りを見ていると、ぐいっと郁真に腕を引っ張られ、椅子をガタンと鳴らしながら席を立つ。
外見からは考えられない、その力強さに驚く暇もなく、いきなりの出来事にバランスを崩した体はそのまま郁真のほうに倒れていった。