魁桜
『怖くはないけど、暗い……』
「…ちょっとぐらい恐がれよ」
『いやぁ…形あるものを恐がれと言われても……』
後ろでは琴音がめちゃくちゃ叫んでる。…でも誰かひとりが自分よりも怖がってたら、少しは冷静になれない?
さっきから脅かそうと特殊メイクをした人達が出てくるけど、ただただそのメイクはどうやって施してあるんだろう…、と違う方に観点がいってしまう。
『…なんか怖がらせる人もさ、客が怖がってないと萎えそうだね』
「お前はその中の1人だよ」
『でも、暁斗もビビってないじゃん?』
「……男が女みたいにビビってたらだせぇだろ」
『まぁ、それもそうか』
こういう時こそ女の子っぽく可愛らしく怖がって彼氏にくっついたりするんだろうけど、なんだかそれって女子の計算のような気がする…。
それを考えると、遊園地ってカップルには絶好のデートスポットだね。
『痛っ。…また壁っ?』
「お前どんだけ前見てないの」
『見てるよちゃんと。…けど曲がり角とか間隔が…』
「危なっかしい奴」
そう言ってさっきよりも強く手を握ってきた。
危なっかしい…。暗いから仕方ないと思うけど、こうやって引っ張ってくれるのは嬉しい。
ふと、気になって後ろを振り向くと、誰もいなかった。
『あ…』
「どした?」
『はぐれた…?』
「あ?」
あたしの言葉に反応して後ろを振り向く暁斗。
「あー、はぐれたな」
『どうしよっか』
「とりあえず、先に外出とけば後で会うだろ」
『…ゴールまだ?』
「すぐそこ」
指さされた先には微かな光。ああ、やっと出口か。何だか長く感じた。
琴音達を置いて、先にゴール。暗幕を潜ると急に光が射し込んできて、思わず目を閉じた。
「お疲れ様でーす。懐中電灯回収しますね」
やっと目が光に慣れてきて、うっすら目を開ける。
……まぶしい。
「琴音達、ここで待つか?」
『……喉乾いたし、お腹すいたからどっかで食べようよ』
そう言うと、一度離した手を再び繋いで食べ物屋さんがたくさん並んでいる所へ歩き出した。